
飲食業界では、経費に関してよくこんな事が言われます。
『原価率は30%以下に抑えるべき』
これは例えば1000円のラーメンを提供する場合、
麺や具材の仕入金額を300円(30%)以内に抑える
という考え方です。
この考え方は、
「正しくもあり、間違ってもいる」
と思っています。
ということで今回は
「飲食業の原価率30%は本当に正解なのか?」
を考えてみたいと思います。
原価率30%は本当に正解なのか?
飲食店経営における「原価率30%」の常識とは?
まずはじめに、飲食業界では売上に対する経費の割合は、一般的には以下のように言われています。
- 原価(食材費):30%前後(業種業態によって変動)
- 人件費:25~35%(フルサービスの店舗は高め)
- 家賃:10%以下(売上に対する目安)
- 水道光熱費:5~8%
- 販促費:3~5%(集客のための広告や割引など)
- その他経費(消耗品・通信費・支払手数料など):5~10%
上記は「一般的な飲食店」の場合です。
原価率に関しては業種業態によって多少変動があり、例えば
- 居酒屋・ファストフード:原価率はやや低め(25~30%)
- ラーメン店・レストラン:原価率が高め(30~40%)
- テイクアウト・デリバリー専門店:原価率は平均的(25~35%)
という指標があります。(※絶対的な値ではないです)
これらの平均値を取った考え方が「飲食業の原価率は30%」と言われる所以ですね。
なぜ自宅飲食店には当てはまらないのか?
自宅飲食店の場合は、この割合が変わってきます。
ちなみに以下は、うちの店(カフェガパオ)の割合です。
- 原価(食材費):40%前後
- 人件費:0%
- 家賃:0%
- 水道光熱費:5%
- 販促費:1%以下
- その他経費(消耗品・通信費・支払手数料など):7%
自宅飲食店はその名の通り、「自宅であるため、家賃は0円」です。
人件費も家族で経営している場合が多いので、こちらも低い比率になっています。
逆に原価率は40%前後と、高めに設定しています。
これは家賃、人件費が浮いた分を原価に回し、商品価値を上げています。
商品価値を上げるというのは、つまり
「安くて質の良いものをお客さんに提供できる」
ということです。
自宅飲食店は、この「安くて質の良いものをお客さんに提供できる」が比較的行いやすい業態だといえます。
「原価率30%は本当に正解なのか?」の答え
以上のことから、「原価率30%は本当に正解なのか?」の問いに関しては、
「原価率は、業種業態によって様々」
といえます。
30%という数字は、あくまでも平均値から考えた「目安」ですね。

50%以上になってしまうと、単純に「薄利」になりますし、また「コスパが良すぎる」ことでお客さんからは「え?大丈夫?」と不安がられる可能性もあります。(結果的に不信感を持つことに成りかねません)
以前「バナメイエビを車エビと称して販売していた食品偽装事件」がありましたが、こういう事例があると「安すぎる=怪しい」というイメージは今の時代も一緒だと思います。
※ただし何か特別な理由がある場合は別。(例えば、既に年金のみでも食べていける、趣味でやっている人など)
自宅飲食店の経費割合
ここからは、自宅飲食店の経費の割合を、各パターンに分けて考えてみたいと思います。
※共通条件は「自宅飲食店である」「立地は住宅街にある」です。
ワンオペで自宅飲食店
設定条件
- 人を雇わずワンオペ(一人)で営業する。
- イートイン営業のみ。
- カウンター10席のみ。
- 1ヶ月間の売上は100万円とする。
- 1ヶ月25日営業とする。
経費の割合
- 原価(食材費):40%
- 人件費:0%
- 家賃:0%
- 水道光熱費:6%
- 販促費:4%(集客のための広告や割引など)
- その他経費(消耗品・通信費・支払手数料など):5%
営業利益
※営業利益とは、売上から経費を引いた金額です。
- 経費の割合合計:55%
- 売上:100万円
- 経費:55万円
- 営業利益:45万円
自宅飲食店なので家賃は0円、人件費は自分のみが働くため0円、その他の経費は多少変動はあると思いますが、おおよそ売上の13%としました。
営業利益としては悪くないですが、ここから自分の給料、税金、保険料等に充てるので、良いか悪いかはその人次第ですね。
年収としては約560万円。
ただワンオペなので相当疲れるし、メンタルの維持も大変だと思います。
客単価2000円であれば、1日20名様来店(2回転)で売上4万円、月25日営業で1ヶ月売上100万円は可能だといえます。
夫婦2人で自宅飲食店
設定条件
- 夫婦2人で営業する。(収入は2人で合算)
- イートイン・テイクアウト・デリバリー
- カウンターとテーブル席で20席。
- 1ヶ月間の売上は150万円とする。
- 1ヶ月25日営業とする。
経費の割合
- 原価(食材費):40%
- 人件費:0%
- 家賃:0%
- 水道光熱費:5%
- 販促費:6%(集客のための広告や割引など)
- その他経費(消耗品・通信費・支払手数料など):9%
営業利益
- 経費の割合合計:60%
- 売上:150万円
- 経費:90万円
- 営業利益:60万円
経費の割合はワンオペとほぼ同じで、変わっているのは売上が150万円になっています。(ちなみにテイクアウト・デリバリーを行っているため消耗品費が少し増えています)
夫婦であるため、専従者給与等で経費負担を減らしたり、作業オペレーションも分業できるので、ワンオペに比べると体力的には軽減されるでしょう。
年収としては夫婦2人合わせて約720万円。
客単価2000円であれば、1日30名様来店(1.5回転)で売上6万円、月25日営業で1ヶ月売上150万円は可能だといえます。
バイト1人雇用で自宅飲食店
設定条件
- 経営者と雇ったバイト1人とで営業する。
- イートイン・テイクアウト
- カウンターとテーブル席で20席。
- 1ヶ月間の売上は130万円とする。
- 1ヶ月25日営業とする。
経費の割合
- 原価(食材費):35%
- 人件費:15%
- 家賃:0%
- 水道光熱費:7%
- 販促費:6%(集客のための広告や割引など)
- その他経費(消耗品・通信費・支払手数料など):9%
営業利益
- 経費の割合合計:70%
- 売上:130万円
- 経費:91万円
- 営業利益:39万円
ワンオペ営業のパターンに、バイトさんを一人雇って少し売上は上がったものの、営業利益はそれほど変わりません。
また原価は35%になって食材はややしょぼくなりました。つまりお客さんへの価値提供は下がりました。
もし仮に原価40%のままをキープしようとした場合、経費の合計は75%になり、営業利益は32万円まで下がります。
バイトさんを0.5人と考えるなら、体は多少楽になるかもしれません。
ただバイトさんはいつ辞めるかわからないため、安定しない経営になりがちです。
また、今後バイト・パートでも社会保険に強制加入するようになれば、その分の保険料もかかってきます。
これらを考えると、自宅飲食店の場合は「他人を雇わない」のがベースになるといえるでしょう。
上記の中では「夫婦2人で自宅飲食店」が、最も経営効率が良さそうです。

まとめ
ということで今回は「飲食業の原価率30%は本当に正解なのか?」を考えてみました。
結局のところ、原価率30%はあくまでも目安にすぎず、業種業態によって異なります。
なので
「原価率30%は正解ともいえるし、そうでもない」
というのが答えになります。
自宅飲食店の場合は「家賃と人件費が0円」のため(※場合によっては人件費はかかる)、その分を
「原価(食材費)にまわして、商品価値を上げることが可能」
です。

これは個人的な見解ではありますが、日本人は個人レベルで「食の目利き力が高い」ので、原価率を上げると『コスパが良い!』と感じる人が多いように感じます。
時代的にも「量より質」であり、かつ「コスパが良い」ものが選ばれる傾向にあると思います。
自宅飲食店は基本的に「家賃と人件費が0円」のため、その他経費への配分の「自由度が高い」ので、
「安くて美味しいものが提供できる業態」
だといえます。
これは「安さをウリにしている飲食チェーン店に対抗できる武器」ともいえます。
この記事を書いていて改めて思いましたが、自宅飲食店の「家賃と人件費が0円」って、本当に凄いことだなと思いました。
飲食業の3大コストは「原材料費、家賃、人件費」ですが、このうち2つが0円っていうのは驚異的だと思います。

詳細はこちら↓をお読みください。
99%潰れない飲食店とは? ●●が廃業しない7つの理由を現役オーナーが解説
12年以上自宅飲食店をやっていて感じますが、飲食業を長く続ける秘訣は
「なるべく経費をかけないようにすることだな」
とつくづく実感しています。
これから自宅飲食店を開業される方は、今後インフレが進むことを考慮して、一旦、原価率30~35%くらいで考えておくのもいいかもしれませんね。(本当は40%でも経営可能だが)
その後、全体のバランスを見ながら原価を上げていくのもいいかもしれません。
ということで今回の記事が自宅飲食店開業を希望している人のお役に立てば幸いです(^-^*)
どうもヨッシー店長です。